夢は終わらない
レッジェンダパークで敵に気絶させられていた緑谷は幼い頃に出会った一人の少女のことを思い出していた
(あの一回きりだったな会ったの・・・元気かな・・・)
朦朧とする意識の中誰かが緑谷の名前を呼ぶ声がした
「おーい!緑谷!大丈夫か?」
切島が心配そうな顔をして覗き込む
「切島くん・・・!?そうだ!皆は!?僕敵に襲われて・・・」
慌てる緑谷をみてにっこりと笑った切島は後ろを指差した
「え・・・」
そこには施設内で他の生徒を襲った数十人の敵が捕まっていた 周りでは、学校から救助に来たであろうヒーロー達や警察が取り囲む
皆は無事なようだったが、敵襲を受けて怖がるどころか意気揚々と談笑していた
「あの敵襲の後さ、緑谷の班が一番先に学校へ連絡できたんだけど・・・・」
「障子くん達・・・良かった連絡出来たんだ・・・それでヒーロー達が来てくれて助かったんだね」
安堵の表情を浮かべ脱力した緑谷の横で切島が嬉しそうに騒ぎだす
「それでよ!皆で散った後に施設の色んなとこから隠れてた大人数の敵が襲ってきて
逃げながら戦ってたら一緒にいた上鳴や麗日まで止まっちまってまじピンチだったんだよそしたらさー・・・」
興奮気味に話す切島の頭上から落ち着いた声が降ってきた
「施設の近くにいた一人の男が駆けつけて敵を一掃した、わけだ」
「無事で良かったわ緑谷ちゃん」
「他の班の所もあの人が助けてくれたみたいだな」
「常闇くん!蛙吹さん!障子くん!無事で良かったよ!ほんとありがと、う!・・・いてて」
心配して周りに集まってきた三人の安否にほっとした緑谷は勢いよく立ち上がった
「気絶させられてたみたいだから無理しない方がいいぜ緑谷」
「ありがとう切島くん・・・能力かけられてた皆は大丈夫なの?後、助けてくれた人って・・・」
落ち着かない緑谷をまあまあと言いながら切島が説明を始めたどうやら能力にかかっていた皆は無事なようだ
ただ酷く混乱状態で、あることないことをぶつぶつと呟いていたという
その助けてくれた人は敵を一掃した後、そのまま何も言わずに去って行ったらしい
常闇が言うには拳から爪のように刃が生えた騎士のような格好をした男性で・・・、緑谷はそれに当てはまるヒーローの名前を思い出していた
「刃に騎士・・・もしかして・・・ナーゲル・・・ナーゲルグラディウス!?」
既に表に出なくなっていた為緑谷は実際に見たことは無かったが、オールマイトが活躍する前の現役時代には人気上位クラスのヒーローで
拳から出る黒い刃を使い次々と敵を倒していく、アタッカータイプのヒーローらしいかっこよさを持った人物である
「聞いたことがあるな」
障子の言うとおり、活躍はしたのだが直ぐに表に出なくなった為かあまり記憶に残らないヒーローだった
「うんそうだよね敵を次々と倒していた功績もあるしなにより剣とか姿がかっこいいからもっと人気でたはずなんだけどなぁでも引退した後もこうやって助け」
「おいおい緑谷落ち着けよ」
ヒーローオタクに火がついた緑谷を切島は苦笑いで止めた
「ごめんつい・・・!ちょっと顔洗ってくるよ」
「先生達がバスの周りで状況説明後、学校へ戻るって言ってたわ緑谷ちゃん」
この後の予定を教えてくれた蛙吹に礼を言ってすぐ近くにある水飲み場の所へと緑谷は歩いて行った
歩くたびズキズキと首の後ろが痛むが、それよりも助けてくれたヒーローに感激していて自然と笑みがこぼれていた
(颯爽と現れ敵を倒して去っていくなんてやっぱりヒーローはかっこいいや・・・!)
水で顔を洗って顔を上げると、誰かが離れた所に立っているのに気付く
その人物の顔は逆光でよく見えないが細く長く束ねた髪を風に揺らしながら静かに緑谷の方を見ている
「あの・・・?、」
ザシュッ!!!
言葉を発した瞬間、激しい風が巻き起こり何かを貫く音がした
あまりの突然の出来事に唖然としていた緑谷の前に壁になるような形で立っていたのは
「!?オールマイト!?」
「無事か緑谷少年!まったくまだ残党が残っていたとはね!」
安否の確認をしたオールマイトの手に赤い結晶のような物が刺さっていた
どうやら先ほどの音はこの刺さった音だったらしい 緑谷の前に現れたあの人物から放たれた物だった
(ヴィラン・・・!)
オールマイトは緑谷を庇う形で前に立ち、緑谷は構える
それをみたヴィランは赤い結晶を撃ちながらオールマイトと緑谷の方へ走り出す
身構える緑谷の前で刺さっていない方の拳を握り締め迎え撃とうとしていた
その拳がぶつかりそうな瞬間攻撃してくるかと思われた敵はオールマイトの脇をするりとすり抜け緑谷の横を横切る
(しまった・・・!緑谷少年!)
オールマイトが振り返り相手を掴もうと手を出したがとそこにはあの敵の姿は無く、へなへなと尻餅をつく緑谷の姿があった
「は、はやい・・・」
間近でヴィランとすれ違った緑谷はほんの数分間に起きた事の大きさに震えていた
あのヴィランは何を目的に自分を襲ったのだろうか ふと、すれ違った時のことを思い出す (あの人・・・どこかで・・・?)
オールマイトの手に刺さった赤い結晶は砕けて消え去る
「・・・もう大丈夫だろう皆の所へ行こうすまない緑谷少年危険な目に合わせたな」
もう危険は無いと確認したオールマイトが緑谷の手を取る
「いっいえ・・・その、ありがとうございました 僕反応できなくて・・・すみません手が・・・」
「ああこれは気にすることはないさ さあ皆が待っている帰ろうか」
それからA組一行は無事に学校へ帰ることができたが
帰還後の警察や先生達の質問攻めにあってなかなかいつもの日常に戻るのに時間がかかった
今回の事件は敵を誘導した施設の人物を含む数名の敵が捕まっていた
しかし緑谷やA組を襲った敵の手がかりは一つも見つからず捜査は難航していた
そしていち早い救出後、颯爽と姿を消したナーゲルグラディウスについての噂は広まり一般人の間で話題になっていた
私は今どこにいるのだろう・・・・・
自分に判ることは、私の身体が私以外の誰かに使われている感覚と周りのかすかな音だけだった
どれだけその状態が続いたのか、私が仇を討つためにあの男をやっと見つけ出し戦ったあの日から、記憶がない
誰かが私の能力を使う感覚がした かすかに感覚が戻ったように感じる
外で何者かが叫ぶ声がする私の目の前に"圧倒的な何か"が立ち塞がっている それは静かに怒りを向けてきた
風を切る音がする後ろの方で"何か"が過ぎ去る 私の身体がそれから逃げたのだろう
過ぎ去る途中ゆらゆらと不規則で気弱そうに、しかし強い光とすれ違った気がした
また真っ暗で何も無い感覚に戻ると知らない声がする
((・・・・聞こえます、か?あの・・・ボク、こんなこと言う資格なんてないですけど・・・))
((今は耐えてください 必ず、お返しします))
((本当にごめんなさい・・・))
消え入りそうな悲しげな声は静かに消えていった
暗闇の中、私はこの状況になる前の事を思い出していた
短い間だったけれどとても懐かしい暖かいあの日と、別れの日と ともに
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