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深い色の瞳は、常に遠くを見ているようで。

「それに、自分が正しいかどうかも分からないでしょう。何が正しく何が過ちか確かな事は誰にも分からない。それなら、人を傷付けるより助ける方を選ばなくては。自分の信じる義を貫く為にも」

輝夜は微笑んで男に向き直る。

「さあ、早くご家族を迎えに行ってあげて下さい」

「は、はい!御恩は一生忘れません!」

立ち去る男を見送る輝夜の横顔を見ながら、扶鋤が低く呟く。

「……似ているな」

以前、同じ事を語った者がいる。

同じように、深い色の瞳で。

『勘違いしてはいかんぞ。光の名を掲げていようと、必ず正しいとは限らぬ。それは俺の父の例を見ても明らかだろう。己の信じる義を貫くなら、無意味に他者を傷付けてはならんのだ』

「ねえ、扶鋤。飛龍は大丈夫かしら」

不意に輝夜に話し掛けられて、太刀を収めながら答える。

「心配には及ばない。あの男は領主ごときに殺されはしないさ」

「そうね。でも、あの領主は多分……」

輝夜は心配そうな瞳で、窓の外に目を向けた。

この深い闇の中、今宵も貴方は傷付くのか。

許されないと分かっている罪を、その瞳に刻み付けて。

一人、何処か寂しげな背中だけを見せて。





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