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怪訝に思って尋ねると、輝夜が再び月を見上げて言った。

「帝は人の中では神に最も近いかもしれないけれど、でも神ではないでしょう。それで良いのね、きっと。神では分からない、人でなければ分からないものがあるんだわ」

「お前、自分ではただの娘と言っているが、時々巫女のような話をするな」

「え?そうかしら」

全く自覚が無い様子で目を丸くした輝夜に苦笑し、改めて向き直る。

「まあ良い。さて、ではこの機会にお前に向こうで名乗る名を付けてやろう」

「名前?」

「名は大切なものだからな。まさか潜入先で本名を名乗る訳にも行くまい。帝から名を賜るなど滅多に無いぞ。有り難く頂戴するのだな」

「それはそうだけど。……変な名前を付けないでほしいわ」

不安そうな輝夜をしばらく見詰め、やがて飛龍は口を開いた。

「水晶【すいしょう】、というのはどうだ?」

「水晶?」

「水が好きなら、気に入るかと思ったが」

「あ、いえ。気に入らない訳では無いの」

輝夜は意外そうな瞳を飛龍に向ける。

「ただ、思ったよりもまともな名前だったから驚いただけ。有り難う」

「ああ。気を付けて行って来い」

そう言うと、輝夜は柔らかく微笑んだ。

「じゃあ私、そろそろ行くわ。またね、飛龍。どうか貴方の道行きに光がありますように」

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