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神のままでは知り得なかった。

地上に降り人として生きてみなければ分からなかった大切なもの。

地上で自分を育ててくれた、これまでに出会った多くの人々。

隣り合って歩く距離も、見交わす眼差しも、触れ合う温もりも、人にならなければ知らないままだっただろう。

けれど、知ってしまえば。

『……輝夜』

それが自分の全てになる。

何よりも尊く何にも代え難い宝石のように。

記憶が、想い出が胸に降り積もっているから。

失わせたりはしない、何にも。

無くしたくない、守りたい。

「短く限られた生の中で過ちと後悔を繰り返しながら、それでも希望を見詰め未来を切り拓く為に命の炎を燃やす姿は、胸を打つではありませんか。刹那だとしても、美しい姿ではありませんか。大切な誰かを失う痛みを貴方もご存知でしょう。お願いでございます。どうか、どうか人間にもう一度、機会を……!」

「……人間の為に命乞いをし頭を下げる。そうまでして守りたいのか。そこまで、そなたは信じているのか。光と闇に生きる帝を」

一瞬、あの厳しくて優しい眼差しが思いに浮かんだ。

大切な、大切な。

「はい。私はあの人ならば平和な未来へ人々を導いてくれると信じております。例えそれが、貴方のご意志に背く事であっても」

「わざわざ考える猶予を与えてやったというのに、まだそんな事を申すのか。愚かな、愚かな娘よ。どうしても考えを変えないと言うのなら仕方が無い」

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