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『……天照を留めたか。人と成り果てても、まだこれ程の力を持つとは』
頭上から太い弦の響きに似た、胸を打つ声が降り注いだ。
『月読よ、そなたは似ている。我の女神に。心から豊葦原を思っているところも、本当によく似ている』
その声からは深い哀しみが感じられた。
飛龍が何も言えないでいると、不意に輝夜が目を開けた。
身を起こし、前へ進み出る。
「天つ大御神、お聞き下さい。先日黄泉の国へと下った際、女神から貴方へ伝言を預かって参りました」
『何?』
「どうか豊葦原を、人の子らを無くさないで下さい。世界の全ては貴方と私が力を合わせ生み出した愛の証。二人が共にいた証。無くさず愛して下さい、と」
大御神が沈黙する中、輝夜は更に続けた。
「お二人の道は分かたれたかもしれません。それでも、共に過ごした時が消えた訳ではありません。むしろ、息衝いているのです。世界の全てに、懸命に生きる人々の中に。それを無に還す事はなさらないで下さい。貴方が女神を想うならば、尚更」
長い長い沈黙の後、天神は遂に言った。
『……そうだな。繰り返される無数の営みの中で、人は幾度も迷い悩み傷付き悔やみ、それでも希望を抱き夢を見る。それを見守るのも我らの務めであろう』
「はい。人は刹那でも、確かな輝きを秘めて生きています。争い奪う事ばかりではなく、想い築き上げる美しき輝きを」
『そうだという事を、そなたらは示した。今一度、返そう。人の手に、人の世界を』
それを聞き、輝夜は深く頭を下げた。
「有り難うございます」
その隣で、飛龍も口を開く。
「感謝します。これからは争いの無い国へ、俺がきっと導いてみせます」
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