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人がいなくなった天上はとても静かで、失われるものの大きさを実感させる。

本来ならば、これが普通なのに。

心地良い賑やかさに慣れていた自分を、今更ながらに思い知る。

「月読よ」

「はい」

響いた大御神の声に、視線を上げて応じる。

「そなたは望まないのであろう?彼等を忘れて、神として再び夜を治める事を」

「……はい。あの日々を失う位ならば、私は神である身を捨てます」

「大地を愛するか。天上での永遠の時を捨ててまでも、刹那を生きては朽ち果てる身を望むか」

「はい」

迷いなど、欠片も無かった。

「私には、それが全てです。貴方が仰ったように、私は人の心を知り人と成りました。もう神には戻れません」

何にも変えられない尊いものは、天上では得られない。

「どうか、私を人にして下さい」

「我は人の浅ましさを思い知らせようと、かつてそなたに周囲とは異なる姿を与えた。それにより虐げられた時もあったであろう。そうならぬよう、外見を以前と変えるか」

「いいえ。以前と同じ姿を望みます」

貴方が瞳に映し触れてくれた、あのままの姿が良い。

あのままで、人になりたい。

「……分かった。ではそのように」

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