10


「お帰り、輝夜」

「……ただいま」

懐かしい温もりに顔をうずめると、涙が溢れそうになる。

「どうして覚えているの?貴方の中から、私がいた事は消えた筈なのに」

「覚えているに決まっている」

耳元で、飛龍が優しく囁く。

「この世界が在るのも、俺が此処にいられるのも、全てお前がいてくれたからなのだぞ」

「……本当に仕方の無い人ね。貴方には驚かされてばかりだわ」

「それはお互い様だと思うが」

僅かに体を離して、飛龍は輝夜の頬に一筋流れた涙を拭った。

「月の女神が地上にいる事の方が驚きだろう」

「私はもう神ではないわ。人になったのよ。そう、大御神に願ったの」

「本当か?神の力や、永遠の時も全て無くしたのか」

そう言うと、輝夜は潤んだ瞳のまま微笑む。

「ええ。でも後悔なんてしないわ。私は今、とても幸せだから」

真っ直ぐに見詰める瞳に、自分でも戸惑う程胸が高鳴った。

「貴方が私を知らなくても構わない。同じ世界で生きて行けるのなら。だから、私は人になったの」

「俺がお前を思い出さなくてもか?もしかしたら会う事さえ無いかもしれない。それなのに、お前は此処へ来たのか」

「そうね。それは寂しいけれど、離れているよりずっといいわ。同じ世界で生きて行けるのなら。そしていつか貴方が私を覚えてくれたなら」

そんなささやかで小さな、淡い希望を抱いて地上に来た。

けれど胸で繰り返す間に、それは逆らえない程大きくなって。

- 339 -






[*前] | [次#]

しおりを挟む


ページ:



Reservoir Amulet