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(……苦しいのね)

歩み寄り、目を閉じて語り掛ける。

人間に対する害悪から、縛り付ける業から解放されたいという気持ちが伝わって来る。

(もう大丈夫よ)

それは声無きものの凍り付いた心に、直接語り掛ける感覚だった。

自分はその冷たさに捕らわれないように、包み込んで溶かす。

(もう、大丈夫)

やがて荒御魂から感じる冷気が和らいだ。

気を抜いたら引きずり込まれてしまいそうな冷たさが、温もりに変わる。

有り難う、と言われた気がして目を開ける。

荒御魂はもう見えなくなり、代わりに眩しい光が一瞬辺りを包んで消えた。

輝夜は息をつき、それから座り込んだままの旅人に駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」

「あ、ああ……」

行商人らしく大きな荷物を背負った老人は、我に返ったように輝夜を見た。

転んだ時に擦りむいたのか、その膝から血が流れている。

「少し待っていて下さいね。私、薬草を持っていますから」

手際良く手当てを始めた輝夜を見詰めて、老人が口を開く。

「驚いたよ、娘さん。あんた、巫女さんかい?」

「え?いいえ。私はただの旅の者です」

そう答えてから、布を巻き終えた輝夜は微笑んだ。

「これで大丈夫です。しばらくは無理に動かさないで下さいね」

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