28
ひかりは一瞬息を吸い込み、それから再び口を開いた。
けれどその声さえも、もう届かない。
『大好き』と、言われたような気がした。
深い意味なんて、無いかもしれないけれど。
触れられないと知りながら、勇はひかりの髪の辺りに手を伸ばした。
そして不意に二人の距離が近付く。
ほんの一瞬だけ唇が触れ合ったと思ったのは、願望ゆえかもしれない。
その後にはひかりの姿は、腕の中から掻き消えていた。
余韻さえ残さず、刹那の内に。
最初からそこにいなかったかのように。
けれど、まだはっきりと焼き付いている。
時折不安気に揺らぐ、明るい瞳。
そっと背中を押してくれる、優しい声。
触れた温もり、幼さを残す笑顔。
全てが鮮明に焼き付いて、忘れる事など到底出来そうにない。
「……いきなり現れていきなり消えるのか。全く勝手な奴だな」
勇は一人呟いて、腰に手を当てた。
「仕方無い。今度会ったら怒ってやるか」
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Reservoir Amulet