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大学の図書館は広く静かで、とても居心地が良い。

何処にいても大抵誰かに話し掛けられるが、図書館ではその確率が低い。

きっとああいう騒がしい連中は、図書館などに用は無いのだろう。

静かに過ごせる場所は貴重だ。

誰にも邪魔されず本を読めるのは、今の自分にとっては至上の歓びだ。

何冊か本を抱えて確保しておいた席へ戻る途中、目に映った光景に思わず足を止める。

立ち並ぶ本の間で、はらはらと涙を流す娘の姿。

いつもなら見て見ぬふりをして素通りするところだが、どうしてか放っておけず声を掛けた。

「どうされました?気分でも悪いのですか?」

「……いいえ」

娘は慌てたように涙を拭い、首を振った。

「調べ物をしていたのですが、答えが出なくて……。それでどうしようもなくて泣いてしまっただけです。心配をお掛けして申し訳ありません」

「一体何を調べていたのですか?」

「人の成り代わりについてです」

娘は真っ直ぐにこちらを見て言った。

その瞳は息を飲む程、静かで激しい光をたたえている。

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