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「この大学では、生ける伝説になっている人ですから。私は噂で聞いた事しかありませんけど。隠し撮り写真が高値で取り引きされているとか、度々サイン会が開かれているとか。私の予想ではアイドル並みのオーラが出ているんじゃないかと」

「名前は知っていますか?」

「ええと、確か……。五十嵐至高さんとか」

考え込みながら言った娘に、微笑んで名乗る。

「申し遅れました。僕が五十嵐至高です」

「……え?」

目を見開いたまま硬直した後、娘は微笑み返して来た。

「もう図書館の良さは分かっていらっしゃったんですね。私が教えるまでもなく」

「ええ。あそこは確かに静かで落ち着きますね」

「それに話で聞くよりは普通の人みたいです」

普通の人。

自分が普通でも人でもないと分かっているから、その何気無い言葉が嬉しい。

「有り難うございます。貴女の名前を聞いてもいいですか?」

「私ですか?私は華原真宵といいます」

名前を聞いてしまった瞬間、もう引き返せないと思った。

抗いようも無く恋に落ちる感覚を、その時初めて知った。

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