08


「俺は、君に幸せになってほしい。ただ、それだけなんだよ」

『貴女に幸せになってほしい。ただ、それだけです』

不意に違う声が胸に響いて、真宵は息を飲んだ。

あれは至高から別れを告げられる、少し前。

彼がこれまでと何処か違う雰囲気を纏い始めて。

寂しげな厳しい瞳で、遠くを見ている事が多くなって。

心配して何かあったのかと訊いたら、何の脈絡も無くぽつりと返された。

哀しい微笑と声を、まだはっきりと思い出せる。

そしてその数日後、彼から冷たい言葉で別れを告げられた。

けれど、今になって思えば。

あの優しくて寂しい言葉こそ、彼からの本当の別れの言葉だったのかもしれない。

「……っ、華原さん?」

腕を伸ばして彼を抱き締めると、戸惑った声が聞こえて来る。

この人も、あの人も。

全くの別人で、けれどやはり何処か似ていて。

とても優しくて寂しかったあの人と。

とても優しくて寂しいこの人に出会えた事は、自分にとって。

この上ない幸福だったのだろう。

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