波のざわめき.10


「じゃあ、そろそろ帰りましょうか」

そう言って、マイヤが来た道を戻り出す。

その背中を見ながら、要が低く呟く。

「……彼女だって同じでしょうに」

同じ位、深いところでいつも泣いているのに。

誰にも見せない深いところで、声も出せずに泣いているのに。

シズマは歩きながら目を伏せた。

彼女にあんな言葉をかけてもらう資格なんて、自分には無い。

これ以上、何を望むのだろう。

本当は自分こそ、いつまでも闇に捕らわれたままの無力な。

「あの、今日は帰ったらすぐにまた実験をしますか?」

張り詰めた空気を溶かすような笑顔で、不意にマイヤが振り返った。

「今度は成功するかもしれませんよね。上手くいかないとしても、何か新しい事が発見出来るかもしれませんし。楽しみですね」

それを聞いたシズマは、そっと微笑んで言った。

「お前は不思議だな」

「え?」

「お前が笑ってると、それだけで何でも上手く行く気がするから不思議だよ」

「ええ?そんな事は無いと思いますけど」

益々目を見張ったマイヤの様子に笑みを深くしながら、シズマはその手を取って歩き出す。

肩を並べる二人を後ろから見守りながら、要と海斗も微笑んだ。

柔らかな微笑は、いつだって心を優しく溶かしてくれる。

張り詰めた空気を暖かく変えるから。

その笑顔が壊れる事の無いよう祈る。

それは哀しい程に儚くて、いとも容易く失ってしまうものだと分かっているから。





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