波のざわめき.11


この、パイプがむき出しになった場所にいると思い出す。

足元から、吸い込まれて行くように。

深く深く。

「…………」

不意に手を強く握り返されて、視線を下ろす。

目が合ったマイヤは、真剣な眼差しをしていた。

「シズマさん、何を考えているんですか?」

真っ直ぐな光は、適当な言い逃れを許さない。

許してはくれない。

だから、小さく息を吐いて呟く。

「少しな。昔を思い出してた」

一人だと分かって、思い知らされて。

誰に話す事も出来ないまま。

足掻いていた頃を。

「昔と今は違いますよね?」

ぎゅっと強く、離れないように手を掴んで。

必死な様子で、マイヤは続ける。

「過去の貴方がどんな貴方でも。今此処にいる貴方が、全てです。今此処にいて、一人じゃない。此処に辿り着いた貴方が全てです」

自分自身の存在を消して。

名を変え経歴を偽り戻って来た彼女は。

きっととても似ているのだろう。

だからいつも欲しい言葉をくれる。

けれどその心地良さに溺れてはいけない。

そんな事は許されない。

そう思いながら、真剣な瞳に笑みを返す。

「……有り難う」

「いいえ」

笑ってくれて、ほっとしたけれど。

それでも心では違う事を考えているのは分かったから。

ぎゅっと強く、離れないように手を掴んだまま。

静かに目を伏せる。

きっといつも何処かで、自分を責めて悔やんで。

その悔恨は消える事無く、いつまでも在るけれど。

それでも、いつかは越えて行きたい。

走り続けて、二人で。

いつか。





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