風の示す場所へ.7


聞こえるのは波音と、自分達の声だけ。

静かな夜、何気無い一時。

それでも語らうこの時が、何よりも嬉しい。

どうして彼がこの夜更けに甲板に来たのかは分からないけれど。

側にいられる事が、ただ嬉しいから。

不意に訪れる沈黙でさえも心地良い。

「……マイヤ」

「はい」

しばらく降りていた沈黙を破って名を呼ばれ、顔を上げる。

吹き抜ける潮風が髪を揺らし、寄せては返す波音だけが耳に入って来る。

まるで、あの夜のように。

「今なら胸を張って言える。俺はこの海みたいに広い場所を夢見てる。自分がして来た事が、いつか誰かの役に立つ。そんな果てしない夢を、いつも抱いてる」

優しい瞳で語られる、優しい夢。

ああ、これこそが。

「俺達の両親だって、そう思っていた筈だ。だから俺ももう忘れない。忘れたくない。夢を見て、叶えて行くよ。少しずつでも」

ああ、これこそが。

ずっと自分が夢見ていた彼の姿だ。

「少しずつでも形にするよ。両親が遺してくれた理論を継いで、いつかは俺の言葉で」

冷たい悪夢から覚めて、暖かな夢を抱いてくれる。

これ程嬉しい事は無い。

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