狂った針が時の記憶を刻む.09


「さすが、優等生だったんだな」

「もしかしたら、葉月先生や広瀬さんのレポートも探せばあるかもしれませんね」

「海斗のは無いだろ。あいつは大学からこっちに引っ越して来たって言ってたから。あるなら大学の建物の方だな。俺も……似たようなもんだから、此処には無いだろうな」

「そうなんですか。残念です」

心から残念そうに言った舞夜に、思わず苦笑する。

「海斗のはともかく、俺のレポートなんて何の参考にもならないぞ」

「そうでしょうか。そんな事は無いと思います。レポートでも、他の書いたものでも……。その人が心からの熱意を込めて書いたのなら、受け取る人の胸を打つと思います」

鎮真が見詰める舞夜の表情は、静かで穏やかで。

微笑む瞳は落ち着いた色をたたえていて。

何故かとても大人びて見えた。

「あの、私。このレポートを読んでみたいです」

「あ、ああ。要も別に怒らねえだろ」

我に返って頷くと、舞夜は嬉しそうに言った。

「有り難うございます。じゃあ、片付けを頑張ります」

本棚にファイルを並べる舞夜の背中で、長い髪が揺れる。

黒く艶やかな髪から目を逸らし、鎮真も棚から溢れたディスクを戻す。

かつて自分の書いたレポートを読んだなら、彼女は何を思うのだろう。

聞いてみたい気もするが、知らないままの方が良い気もする。

彼女の語る事が、言葉が、確実に閉ざした筈の扉に触れて来るから。

これ以上、近付いてはいけないと分かっている。

それでも。





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