揺らめく海の都市.07


そう思った時、廊下を一人の若い男が歩いて来た。

「ああ、鎮真。たまには仕事をしていますか?」

穏やかな笑顔に騙されてはいけない。

「丁度良い所に犯人が来やがったな」

「犯人?」

「要【かなめ】、春日に変な事を吹き込んだのはお前だろ」

すると、翡翠【ひすい】要は当然のように言う。

「僕はありのままを告げただけです。それに、君はガラが悪く見えて実は面倒見が良いでしょう」

「また誤解を招く事を言うな。俺もお前の恥ずかしい過去を流すぞ」

「はいはい」

要は特に気にした様子も無く軽く頷き、舞夜が歩いて行った方を見た。

「でもあの娘、大したものですね。僕は直接読んだ訳じゃありませんが、上の方が満場一致で転入を許可したそうです。別にこれまで他の論文を発表していたのでもないのに、あのうるさい上を黙らせて学費免除で物理学科に編入なんですから」

「そうか。それは発表会が楽しみになるな」

「だからこそ、君と会ってほしかったんです。そんな彼女と話したら、もしかしたらと」

鎮真はそれを聞き、沈んだ瞳で言った。

「『もしかしたら』か。そんな事は有り得ねえよ」

もう有り得ない。

もしかしたらなんて曖昧な可能性さえ、もう全て。





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