記憶の海.10
彼女が持っていたディスクが足元に落ちているのを目にし、とっさに拾ってポケットに押し込む。
この中に入っているデータが何なのか、正確には分からない。
大体予想はつくけれど。
この為に、全存在を賭けて戦う事を決意したのか。
流される事も、飲み込まれる事も許さずに。
「君があんなに取り乱すなんて珍しいな」
気が付くと、司が隣に立っていた。
「……そうだな」
息をついて顔を上げる。
「我ながら、どうかしてたと思う」
「マイヤ・セレイン・ジェスか。この都市の開発者の一人に、そんな名前の娘がいたな」
「どうであれ、もう関係無いだろう。彼女はもう死んだんだ」
あれだけ銃弾を受けて、この高さから落ちたのだ。
助かる筈が無い。
そっと自分に左肩に手を当てる。
彼女が最後に残した傷が痛むから。
これも、彼女が受けた痛みに比べれば取るに足りないものだけれど。
「……行くぞ」
海に背を向けて歩き出す。
これ以上此処にいては心が乱れる。
冷静な自分ではいられなくなる。
彼女のことしか考えられなくなる。
だから今は扉を閉ざして。
想いを弔う海原に背を向けて。
閉ざされた戦いへ。
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