記憶の海.11


想い出を飲み込んだあの波は、手の届かない深みへ消えた。

マイヤが海を見詰めたまま、静かに口を開く。

「辛い思いをさせてしまったのなら、すみません。けれど託せる託せる人は貴方しかいなくて……。此処で貴方に会った時、嬉しかったです。この人ならきっと……って思ったから」

この人ならきっと、自分の残したものを受け止めてくれる。

いつか自分のことを忘れても、託した願いをきっと実現してくれる。

この、何処か寂しくて優しい瞳をした人ならば。

「どうして、そんな風に思ったんだ?」

「何故なのかは、私にも分からないんです。ただ、貴方も何処かで私と同じ事を願っているのかもしれないと、何となく感じただけで」

シズマは手すりにかけた手に力を込める。

「自分の全てを賭けるには、あまりに弱いだろう。俺はお前が思うような人間じゃない」

「……シズマさん、貴方は私と同じだと感じたんです」

深い青の瞳が、真っ直ぐに見詰めて来る。

「一人で考えて悩んで、戦って。だから寂しくて、でも誰にも寂しいと言えない。私と同じなんじゃないかって」

吸い込まれそうな瞳は、優しい光をたたえていて。

「話したのはあの時だけでしたけど、私はずっと見ていたんですよ。シズマさんが時々、この場所に一人で来るのを。バイトをしながら見ていたんです」

どうしてだろう。

どうして、その姿を目で追うようになったのだろう。

切なくて、胸が千切れそうな程。

「どうして貴方ならって、あんなに強く思ったんでしょう。もう何度も間違えたのに」

許されない嘘や罪を重ねても、それでも。

こんなにも残酷で、身勝手な願いを抱かずにいられない程に。

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