記憶の海.12


どうしてだろう。

それは、今隣に立っている人の痛みが伝わって来るからだろうか。

それなのに願ってしまう、どうしても。

「マイヤ……。お前は俺を、恨んではいないか?」

低い声で尋ねると、マイヤは息をついた。

「いいえ。あれは私が決めて勝手にやった事ですから。恨むなんて出来る筈ありません」

「だが、あの時俺は確かにお前を殺した。それはもう、変えられない事実なんだ」

思い出すのが怖かった、あの凍り付くような瞬間。

手を伸ばせば届きそうに思えたのに、それでも助けられなかった。

何度も繰り返し見る夢で、自分は何度も何度も彼女を殺す。

変えられない。

どんなに悔やもうが、もう二度と。

「でも私は、生きてますよ」

風に揺れる髪を押さえてマイヤが微笑む。

「本当は私も、あそこで死んでも良いって思ったりしたんですけどね。でも偶然通り掛かった船に拾われて……。それからその船が着いた街で四年間、別人として生活しました。マイヤ・セレイン・ジェスを完全に死んだ事にすれば、また此処へ戻る事も出来ると思ったので。だから高校生春日舞夜として髪を染め、個人情報を偽ってこの都市へやって来たんです」

「俺に会いに?」

「はい。シズマ・ジェイ・ルシードで調べても、今何処にいるのか分からなくて。でもシードジェス学院の教員名簿の中に『葉月鎮真』の名前を見付けてもしかしたらと。もう一度、貴方に会いたかった。許されない事でも、二度と本当の自分で会う事は出来なくても、それでも」

残酷で身勝手で、罪深い願い。

もう一度会いたくて、叶うなら。

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