神立


仕事を終えて私服に着替えた荷葉が側に来て、椅子から立ち上がる。

レジに立っていた青年をオーナーと紹介され、慌てて頭を下げる。

「美味しいケーキを有り難うございました。本当にサービスして頂いて良いんでしょうか?」

「勿論ですよ。またのお越しをお待ちしております」

感じの良いオーナーに紅茶のオーナーを払い、少し会話を交わしてから向きを変える。

満面の笑みを浮かべた従業員に総出で見送られ、雨の降る外に出た。

「オーナーさんも他の方も、皆さん良い方ばかりですね。とても親切にして下さって」

「有り難うございます。また来てくれたら、皆歓びますよ」

感動して言うと、荷葉も嬉しそうに答えた。

その事が何となく嬉しくて、笑顔になる。

「……雨、止みませんね。本が濡れてしまいませんか?」

傘を差しながら本屋の袋を抱えているのを見て、荷葉が尋ねて来た。

「あ、はい!これだけは守り抜きます」

何しろこの袋には、荷葉へと買った車の雑誌が入っているのだ。

雨で濡れてしまう事態は、何としても避けたい。

「本当に本が好きなんですね。君も濡れないようにして下さいね」

苦笑気味にそう言った荷葉が、自分の傘を少しこちらへ差し掛けてくれたのが分かった。

こういうさり気無い優しさが、嬉しいと同時に。

最近少し苦しくなる。

どうしてかは分からないけれど。

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