玉響
置かれた代金を見て、思わず溜息が洩れる。
「私がご馳走するって言ったのに……」
まるで風のように、吹き抜けて一瞬で言ってしまった。
呼び止めた声も届かないまま。
「それなら追い掛けて、返して来たらどう?」
軽やかに言われて、はっとして顔を上げる。
「このままお別れなんて嫌でしょう?」
「放っておいたら一人で無茶をするだろうな、あいつは」
「鬼若がそれを言うの?」
戸惑いがちに二人の顔を見比べる。
「でも私……今日はこの店で働かないと」
「心配いらないわ。私が代わりに働くから」
当然のように返した水晶は、優しく微笑んで続ける。
「追うなら急いだ方が良いわよ」
「そうだな。あいつは足が速そうだ」
穏やかな笑顔に促されて立ち上がる。
「有り難うございます。私、行って来ます」
「行ってらっしゃい」
「気を付けてな」
手を振る鬼若と水晶に頭を下げて外へ出た。
辺りを見回しても、もう既に荷葉の姿は見えない。
それでも、彼が向かった場所なら分かる。
先程水晶がやって来た方向へと、道を駆け出す。
追い掛けた先に、何が待つかは分からない。
それでも、このまま会わずに後悔するよりは。
今出来る事をやって悔やむ方が、ずっと良い。
- 126 -
[*前] | [次#]
しおりを挟む
ページ:
Reservoir Amulet