玉響
「……大丈夫か?」
自分を見下ろす深い瞳と、静かに冷えた声。
それでも、体を支えてくれている腕は確かに温かいから。
逆らってみたくなる、運命にも。
「はい。すみません、荷葉さん。心配をお掛けしました」
体を起こし、今もこちらを見詰める龍へと目を向ける。
「全く襲って来ない。普通の妖魔とは違うようだが……」
「まだ残しているのでしょう。かつての想いを」
言いながら立ち上がり、自分の衣に手を掛ける。
「何をしている?」
「この滝壺の中に、櫛が落ちている筈なんです」
「櫛?」
「恋人の形見だそうです。それを落としたまま、彼はこの場所で命を絶たれた。だからその櫛を見付けて、彼に返すように頼まれました」
手短かに説明したから、全てを伝えられたとは思えない。
それでも刀や帯に挟んだ小太刀を地面に置いて帯を解こうとするのを、半信半疑の面持ちで見ていた荷葉は盛大に溜息を吐いた。
「馬鹿か、貴女は。いきなり脱ごうとするな」
「でも、行かないと……!」
反論しようとした言葉は、突然ばさりと掛けられた衣に遮られた。
驚いている内に、重い太刀まで投げ渡される。
「俺が行く。貴女は此処で大人しく待っていろ」
「あ、荷葉さん!」
呼び止めようとしたが、荷葉は振り向こうともせずにさっさと水の中に入ってしまった。
仕方が無いので、言われた通り大人しくその場で待つ事にする。
様子を伺うように頭を近付けて来た龍に向かい、微笑んで話し掛ける。
「あの人なら大丈夫ですよ。私達は此処で待ちましょう」
そう、彼なら大丈夫だ。
彼はやると決めた事を途中で投げ出したりしない人だから。
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Reservoir Amulet