玉響
これから彼の行く、長い旅路に。
この先彼が挑む、影の戦いに。
ほんの僅かでも、慰めのようなものを。
滅び急ぐ魂に、躊躇いを。
与えられたら、残せたら。
刹那の邂逅も、一夜だけ刀を合わせた事も。
決して無価値な事ではないから。
「……っ!」
何度か斬り掛かって刃を重ねたが、とうとう刀を弾かれて手を離してしまった。
手が痛むのも構わず、地面に転がった刀の方へと駆け寄ろうとする。
帯に挟んだ小太刀や素手では、きっと勝負にもならない。
しかし刀の所まで行くより先に、目の前に銀色が走った。
すぐ横の木の幹に突き刺さった太刀と、それを持つ彼の体で動きを封じられる。
「……勝負あったな」
ゆっくりと向きを変えると、驚く程近くに彼の顔があった。
「もう止めろ。このまま日が高くなるまで続けるつもりか?」
そう言われて、ようやく気付く。
暗かった辺りにはいつの間にか、暁の光が射している。
一晩中、刃を合わせていたのか。
ふっと息をつくと、急に激しい疲労感と痛みが襲って来た。
それでも微笑んで、暁の光を浴びて立つ彼を見上げる。
紅に色付いた葉は、今もはらはらと舞っている。
ああ、なんて。
- 141 -
[*前] | [次#]
しおりを挟む
ページ:
Reservoir Amulet