秋
あんな巨大な生物が街中で暴れているなんて知られたらパニックだろう。
けれども実際は妖魔の存在など知らずに、皆は普通に生活している。
すると荷葉が、軽く息をついて微笑んだ。
「妖魔が現れる前には、何らかの怪異が起こる事が多いんですよ」
「怪異?」
「それがどんなものかは、実際に見た方が早いでしょう」
そう言ってポケットを探り、携帯電話を取り出す。
「連絡先を教えてもらえますか?次に怪異が起こった時には、桔梗さんにも連絡しますから」
「あ、はい」
慌てて携帯電話が入っているバッグを引き寄せながら、不思議に思って口を開く。
「賢木さん、さっきまで私が一緒に戦うのを反対していませんでした?」
「今でも反対していますよ。でも僕が止めたところで、君は引き下がらないでしょう?」
「それはそうですけど……」
荷葉は手際良く電話番号とメールアドレスを交換して立ち上がった。
「では、手当てと紅茶を有り難うございました。あまり遅くまでお邪魔する訳にも行きませんし、僕はこれで失礼しますね」
「は、はい」
太刀の入ったバッグを背負った荷葉を、玄関先まで見送る。
「お邪魔しました。また連絡しますから」
「はい。お休みなさい」
荷葉が出て行ってドアが閉まると、急に静かになった。
一人暮らしなのだから、いつもはこれが普通なのだが。
紅茶のカップを取り上げて流しに運びながら、部屋の隅に目を向ける。
そこには変わらずに刀が置いてある。
全ては夢でも冗談でもない。
自分が、彼と共に戦うと決めた事も。
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Reservoir Amulet