追憶


記憶はある。

押し寄せるようによみがえった永い記憶も。

けれど、それとこれとは話が別だ。

「私、顔を洗って来ますね!」

言い残して、速やかに洗面所へ移動する。

今は頭を冷やして、平常心を保つ事が大切だ。

思い出したのは、心を乱すのに充分な。

苦しみと切なさ、愛しさと恋しさ。

まだ全て受け止め切れない。

静かで激しい想い。

もう少し冷静になって、時間をかけて考えてみたい。

恋しさの記憶と、現在を。

「お待たせしました」

顔を洗って戻ると、荷葉は穏やかな笑顔で言った。

「いいえ。では僕も洗面所をお借りしますね」

「はい、どうぞ」

部屋を出て行く姿を見送り、気持ちを切り替えるように深呼吸をする。

今の内にしっかり身支度を整えて、いつもの自分に戻ろう。

あの穏やかな微笑みが、とてつもなく嬉しいから。

今までのまま、壊したくない。

静かに自分の唇に触れて、息をつく。

雨の中触れ合った温もりも、今ならきっと。

夢のようだと、考えられるから。








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