秋
いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰ろうと仕度をする。
外に出て、冷えた空気に目を細めた。
真っ直ぐ帰ろうと、そう思っていたのに。
バッグに手を入れて、中に入っている手帳に触れる。
ほんの一瞬の、偶然の出会いだったのに。
名前も知らない。
顔だって、しっかりと見た訳じゃない。
それなのに、どうして忘れられないのだろう。
あの紅の葉に導かれた出会いを。
忘れられなくて、結局帰りには毎日あの場所まで足を伸ばす。
もう一度会えたとしても、どうしたいのかも分からないのに。
木の下で足を止めて、溜息をつく。
今はもう舞い散る葉の数も減って。
景色はすっかり冬めいて来た。
手帳を取り出して、開く。
中にはあの時渡された葉が挟まれている。
これが無ければ、全て夢だったと思う事も出来たかもしれない。
けれども刻まれてしまったものは、もう消えない。
手帳を閉じて仕舞った時、木がざわざわと音を立てた。
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Reservoir Amulet