こちらを見て、親しげに声を掛けて来る。

「あら、千歳【ちとせ】ちゃん!おはよう」

「聞いたわよー!手伝いに行っていた街のお茶屋さんに求婚されたんですって?」

「お相手は跡取り息子でしょう?良かったわね!」

「ご両親も歓んでるでしょうね」

一気に盛り上がる皆に、曖昧な笑顔で返す。

「え、ええ。とても有難いお話だと思っているわ」

そう答えながらも、心は晴れなかった。

この女性達も、両親も歓んでいるから尚更。

茶屋に嫁げば、生活に困る事は無い。

両親の暮らしも、今より楽にしてあげられるだろう。

断るなんて選択肢は、始めから無い。

けれど。

洗濯を終えた後、人目を忍んで山へと踏み入る。

しばらく進むと見えて来る。

ひっそりと経つ、小さな祠。

自分で木や石を集め、長い時間を掛けて築いたものだ。

彼がこの地で眠っている訳では無い。

此処は昔、幼かった頃。

彼と手を繋いで、よく遊んでいた場所だ。

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Reservoir Amulet