距離


しかし内心は、ちっとも穏やかではなかった。

『これからも、私は恋をしないと思います』

『想いはとても強くて……。こわいものだと思って』

何処か哀しい瞳でそう語った彼女は、きっと自分でも気付かないところで深く傷付いていて。

だからこそ、無意識に失う事を恐れていて。

決して、こんな飲み会の軽いノリで誘ったりしてはいけない娘なのだ。

ああいう連中が変な気を起こしたりしないよう、見張っていなければ。

決意を胸に下げた食器を置きに厨房に戻ると、この店のオーナーである大嶋【おおしま】隼【しゅん】が話し掛けて来た。

「賢木君、何か今日様子が変だけど……。具合でも悪いのかい?」

「あ、いえ……。そんな事はありません。すみません」

態度に出ていたとは、情けない。

反省して頭を下げると、隼は心配そうな顔で続ける。

「僕の気のせいなら良いんだけどね。でも何か気掛かりな事があるなら、早目に上がっても大丈夫だから。今日は人手も足りてるし」

「……有り難うございます」

気遣いに感謝しつつ、再度頭を下げる。

これまでに何があっても、仕事中に表に出す事など無かったのに。

こんなにも掻き乱される、結崎桔梗という存在は。

やはり自分にとって、思っていた以上に特別なのかもしれない。







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