距離


普段は滅多に履かない高いヒールの靴で、苦労しながら階段を下りる。

これでは思うように動けない。

砂の上で足を止めて素早く靴を脱ぎ、前を行く荷葉の後に続く。

波打ち際の近くまで歩いて立ち止まり、暗い夜の海を眺める。

今はまだ、姿は見えない。

それでも分かる。

此処に、確かにいる。

世界が傾く時に現れる異形のもの、妖魔が。

あの異質な雰囲気は、もう感じ取れる程になっている。

戦いに備えて、バッグから刀を取り出す。

少し離れた所で同じようにしていた荷葉が、ふと思い付いたように太刀を鞘から抜いた。

「どうでしょう、桔梗さん。妖魔が姿を見せるまで、軽く打ち合ってみませんか」

「……!」

突然の提案に驚きはしたが、すぐにその意図は分かった。

海から吹き付ける風は冷たく、体を凍えさせる。

今の内に動いて、冷えた体を温めておくのは大切だろう。

峰の方を向けた刀を構え、こちらを見据える荷葉に向かって言う。

「……お願いします」

「こちらこそ」

薄く笑んだ荷葉が、同じように峰を向けて構える。

しばらく見詰め合い、そしてほとんど同時に動いた。

刃がぶつかり合う、冴えた音が響く。

一瞬後ろに下がり、再度振り下ろした刀は荷葉の太刀に受け止められる。

そういえば、こうして打ち合わせるのは初めてだ。

けれど、どうしてだろう。

刃を合わせる度、胸が高鳴る。

普段は心を見せない荷葉の。

深層に近付いて行く気がする。

重なり合う気がする。








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Reservoir Amulet