距離
そう言うと、桔梗は決意を固めたように見上げて来た。
「あの、もし宜しければ私がやります」
「お客さんの君にそんな事をやらせる訳には……」
「気にしないで下さい。いつも自分で洗濯していますから」
何か役に立ちたくて仕方ないのだろう。
その意図を感じ取って、思わず笑みを浮かべる。
「では、お願いしても良いですか」
「はい!お任せ下さい」
「では、これを飲んで一休みしてから始めて下さい」
湯気の立つ紅茶のカップを手渡しながら言う。
すると桔梗は両手でカップを持ったまま、ふっと微笑んだ。
「色々有り難うございます、賢木さん」
「……いえ」
珍しく、上手く言葉が出て来なかった。
それは不意に向けられた微笑に、唐突に。
胸騒ぎを覚えたからかもしれなかった。
言葉を返せないまま、笑顔だけを返してバスルームに向かう。
早くシャワーを浴びて、頭をすっきりさせた方が良いだろう。
胸騒ぎの理由は、まだ分からない。
けれどその中に、どうしようも無い苦しさや切なさがあるのは確かなように思える。
やるせなくてもどかしくて、けれどただ。
ただ、前だけを向いて行くしか無いけれど。
胸を掻き乱すこの感情は、何なのだろう。
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Reservoir Amulet