鎖.18
「だから、私があの人を壊します。邪魔はさせません。貴方にも」
「彼はもう、既に悪魔に魂を売り渡しています。全てを覚悟した上で、自らも悪魔となった。その事実は、もう動きませんよ」
「分かっています。だからこそ、今のままではいけない」
自分の全てを引き換えにして、彼は願った。
その事実は、動かない。
どんなに悔やんでも、苦しんでも過去は変わらない。
それは痛い程に分かっているから。
だから、せめて。
「その事実の上に、新しく築いて行けば良いんです。本当のあの人を」
「しかし、霄瓊さん。それでは……」
「失われた過去は戻らない。それで構いません」
黒曜の言葉を遮り、迷いの無い口調で言い切る。
「きっとそこに私はいないでしょう。記憶の片隅にも留まらないかもしれません。けれど、それで構いません」
これ以上、痛みを増やす事は無い。
過去が戻らなくても、過ぎ去った時の中で折り重なったものは消えない。
それだけで、充分だから。
霄瓊は無意識の内に服の下のペンダントの感触を確かめ、小さく息をついた。
「私はもう、充分です」
「待って下さい。それでは何一つ、貴女は報われない。このままでは、彼は何も知らないままになってしまいますよ。貴女を嫌い、拒絶したままになってしまう」
「報われていますよ。充分過ぎる程に、私は満たされています」
そう語る表情は、まさしく全てを許す聖女のものだった。
「貴方はご存知でしょう。本当なら私はもう二度と、あの人と会う事さえ出来ない筈だった」
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