秘密.28


今も強く激しく呼ぶ声に応じたら、今までの自分を愛しい記憶を無くしてしまうのなら。

あの人が、全てを引き換えにしてもこんな自分を望んでくれたのなら。

「美鈴さん。混沌へと還らずに、もう一度人として生きる事は出来ませんか」

「……霄瓊?」

「悪魔が人の世で生きているのなら、私も同じようには出来ませんか」

無茶な事を言っていると自覚はしていた。

それでも、いつまでも此処でただ悲嘆に暮れている訳には行かない。

一つの選択が成されたのならば、自分も選んで進まなければ。

「貴女は、何をするつもりなの?」

「今のままの私として戻って、変わってしまったあの人を壊します」

迷いは無かった。

思い出すのは、見詰めてくれる優しさを秘めた瞳。

抱き締めてくれる力強い腕と、耳に残る数少ない言葉の一つ一つ。

「そうして、本当の優しい静嵐を取り戻して、幸せになってもらいたいんです」

「何を言っているの、無理だわ!彼はもう魂を売り渡してしまったのよ?貴女との想い出も、全て無くしてしまったの。貴女を知る彼はもう、何処にもいないのよ」

「分かっています。失われてしまったものは戻らない。それで構いません」

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