solitaryfight.17
そのまま微笑んで、偽りを隠す毒を飲み干そうと思ったのに。
ふと振り向いた視線の先に。
もう誰もいない筈なのに、一人立ってこちらを見詰める青年の姿があった。
何も言わず、ただこちらを見ている。
その瞳は怒っているように光っていたが、同時に優しさも感じた。
誰だろう。
しかし尋ねるより先に青年が歩み寄って来て、痛い程腕を掴んだ。
何処か幻のように思っていたのに、確かに感じる体温に今更ながら驚いてグラスを取り落とす。
床にグラスが当たって砕け散り、やけに冴えた音を立てた。
そして青年は腕を放そうとはしないまま、口を開いて短く言う。
「行くぞ」
何処へと訊く間も与えず、足早に歩き出す。
それでもまだ、これが現実だとは信じられなかった。
声を出したら、この温もりも消えてしまいそうで。
体は黙って従う。
連れ出して、このまま静寂の向こうへ。
- 125 -
[*前] | [次#]
しおりを挟む
ページ:
Reservoir Amulet