solitaryfight.17


そのまま微笑んで、偽りを隠す毒を飲み干そうと思ったのに。

ふと振り向いた視線の先に。

もう誰もいない筈なのに、一人立ってこちらを見詰める青年の姿があった。

何も言わず、ただこちらを見ている。

その瞳は怒っているように光っていたが、同時に優しさも感じた。

誰だろう。

しかし尋ねるより先に青年が歩み寄って来て、痛い程腕を掴んだ。

何処か幻のように思っていたのに、確かに感じる体温に今更ながら驚いてグラスを取り落とす。

床にグラスが当たって砕け散り、やけに冴えた音を立てた。

そして青年は腕を放そうとはしないまま、口を開いて短く言う。

「行くぞ」

何処へと訊く間も与えず、足早に歩き出す。

それでもまだ、これが現実だとは信じられなかった。

声を出したら、この温もりも消えてしまいそうで。

体は黙って従う。

連れ出して、このまま静寂の向こうへ。

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Reservoir Amulet