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あの夜から華憐が紫陽の名を口にする事は一度も無く、何もかもいつも通りだった。

まるで何事も無かったかのように。

けれどあの時感じた胸の痛みは、今も消えずに疼いている。

彼女が自分に話し掛ける度、またその口から他の男の名を聞くのではないかと恐れて。

いつも心を占めるのは、そいつなのかと。

真っ直ぐに自分を映す眼差しが、逆に切なくて。

『本当に好きになってほしい女の人に巡り会った時、振り向いてもらえなかったらどうするの?』

以前の華憐の何気無い言葉が、今更ながら胸に刺さる。

本当に、自分はどうしてしまったのか。

子供にしか見えなかった少女の事を、いつしかこんなにも。

『私が小さい頃からずっと一緒にいて、私の面倒を見てくれた人』

そして自分の気持ちを知ってから、思い知らされる。

始めから自分が入り込む余地などありはしないと。

いつも側で見て来たから嫌でも気付く現実。

彼女は絶対に、自分の手には届かない。

そうと分かっているのに、無様に諦め切れないで。

ただ笑顔を願って見守るしか、出来ないままで。





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