05


他に世界があるなんて知らないまま。

歩いて行く人々の時間は止まらない。

懐かしさが無い訳ではないけれど。

向こうで生きて来た事が、過ごした日々の方がずっと大きくて。

だから何も無かった自分の人生に煌めきを与えてくれた存在を、早く早く。

蒼は駅の噴水の傍らにあるベンチに腰を下ろして、息をついた。

この世界に来てもう数日経つというのに、まだ見付けられない。

今の自分には彼女の魔力があるから引き合って居場所も分かるかと思ったが、自分の中の暖かな力は静かなままだ。

きっと、彼女の方が拒んでいるのだろう。

捜すなと言いたいのかもしれない。

でも、それでも諦める事なんて出来ない。

どれ位掛かっても、必ず見付け出す。

足を止める事無く歩く人々を見ながら、蒼は再び息を吐く。

この数日間、彼女を捜して歩く内に困った癖が出来てしまった。

少しでも彼女に似た黒髪の少女を見ると、つい視線が追ってしまう。

我ながら女々しいとは思うけれど。

(あ、あの娘も少し似てるか?)

人混みの中に長い黒髪の後ろ姿を見付けて、それから虚しさに髪をかき上げる。

(馬鹿だな、幾ら似てたって……)

意味が無いのに。

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