09


「知っていたのか?華憐がやろうとしていた事を」

蒼が戸惑ったように言う。

「どうして止めなかったんだ?騎士団は王家の者を守る為に在るんだろう?」

「騎士団長殿はね、私に賭けて下さったの。私の示した、何の保証も無い未来を信じて下さったんだよ」

華憐は静かな声で語る。

「王女としては許されない事をしようとしていた私を、信じて下さったの。だからお礼を言いたかった」

「お礼を言うのは私の方ですよ、華憐様。貴女が王女で、蒼と出会って下さって良かった。有り難うございます」

まだ戸惑ったままの蒼に、華憐が微笑み掛けた。

「ね、蒼。騎士団長殿も皆も、貴方を大切に思っているんだよ。貴方は愛される為に生まれて来たんだよ。貴方がいなくなったら皆悲しむし、笑っていてくれたらそれだけで嬉しいの。生まれて来てくれて、此処にいてくれて、本当に有り難う、蒼!」

『じゃあ俺は死ぬ為に生まれて来たって言うのか!このまま何も残せずに、生み出せずにただ死んで行くって言うのか!』

いつかの自分の言葉が頭に響く。

あの頃は、その答えがいつか貰えるなんて思っていなかったのに。

答えをくれる人に出会えるなんて夢にも思わなかったのに。


それでも今、手を伸ばせば届く程近くにあるあどけなさを残した眩しい微笑みが、優しい声が胸の奥深くまで暖かく広がって行くから。

何だか不意に泣きたくなって。

涙は堪えたけれど、しばらくしてようやく出て来た声は、少し震えていたかもしれない。

「……有り難う」

君がこの世界に生まれて来て、こんな自分と出会ってくれた事を心から感謝するから。

沢山の哀しみや痛みを乗り越えて笑っていてくれる君に、心からの有り難うを。






- 318 -






[*前] | [次#]

しおりを挟む


ページ:



Reservoir Amulet