05
アウローラがパン屑を蟻にあげるのを眺めながら、ライオスはふと呟きを落とした。
「……蟻は良いですね」
「……?」
「毎日皆と協力して、働いて生きている。この行列には乱れも争いも無い。こんな小さな生き物ですら出来る事が、どうして人には出来ないのか」
それは、ほとんど独り言に近かった。
誰かの答えなど、期待してはいなかった。
一人旅をしていた間の癖が出て、ついそんな事を呟いてしまったのかもしれない。
けれども、今は一人ではない。
側にいて、その言葉に真剣に耳を傾ける存在がいたのだ。
アウローラは不意に身を乗り出すと、ライオスの手を両手で覆った。
「ローラ?どうしました」
「…………」
驚いて尋ねたライオスに、深い青の瞳が懸命に何かを訴えて来る。
しばらく見詰め返してから、ライオスは慎重に口を開いた。
「このように、人は手を取り合う事も出来る。協力し合い生きて行く事も出来る、という事ですか?」
何度も頷きが返される。
その真摯な眼差しを見ている内に、不思議と胸が満ちて行くような感覚を覚えた。
それは暖かで静かな、優しい波。
けれど、全てを揺るがし変えて行くような。
いつしか、心の奥深くまで沁み渡るような。
「……有り難う、ローラ」
自分でも驚く程に穏やかな声で、ライオスは言った。
それを聞いてぱっと輝くアウローラの心から嬉しそうな顔を見て、鈍い危機感に陥った。
普段なら愚かな偽善、ただの理想に過ぎないと片付けられる甘さを。
何だか信じてみたくなる自分がいるから。
彼女は変えて行くのかもしれない。
狂い凝り固まった理を、在るべき様へ。
その穢れ無き幻想を、ひたむきに心で叫び続ける事によって。
夢見る力を体現する事によって。
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