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「誰も知らない平和な世界を、アウローラ姫は知っているのです。優しく希望に満ちた世の在り方を、彼女ならば体現してくれるでしょう。我々は今、新たな未来を拓く鍵を目の前にしているのです」

抗えない熱情が、室内に満ちていた冷えた空気を変えて行く。

「世界を変えるのに、大きな力など必要ありません。必要なのは、一人一人の意志です。目には見えない、一人ずつではささやかな力です。けれども集まれば、今の世を動かす理さえも覆すでしょう」

笑ってしまうような幻想だ。

そうと分かっているからこそ、高らかに。

全ては信じる事から始まるのだ。

「戦争を知らない存在が消えてしまわぬ内に、我々の手で平和を取り戻すのです。後に生まれて来る子供達に、争いを教える事など止めましょう。その為ならば些細な虚栄や誇りなど捨て去るべきです」

アウローラの蒼玉の瞳を見て、王に語り掛ける。

「この美しい瞳が見えるでしょう。此処に来るまでにどんな哀しみがあっても、この輝きは褪せませんでした。どうかこれ以上この瞳に争いを、そこから来る痛みを映さないで下さい」

王の方に視線を戻し、力強く言い放つ。

「まずは我々から始めて行きましょう」

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