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長い長い沈黙があった。
やがて、溜息と共に王は言った。
「……放蕩息子が、大きな口を利くようになったものだ」
それから、アウローラを見詰めて尋ねる。
「アウローラ姫。百年の時を経て目覚めた王女よ。貴女に問おう。この世界に光は残っているか。世界は変わらず美しいか?」
「…………」
様々な事を思い返す瞳をした姫は、真剣な表情で頷いた。
そして、息を吸い込んで唇を開く。
「世界は、美しいです」
「……っ」
息を飲んだライオスが見る中で、澄んだ瞳から一筋の涙がこぼれた。
まだ何処かたどたどしい、しかし揺らがない声は続く。
「世界は、美しいです。泣きたくなる程に。光は、あります。人の優しさや、愛が消え失せない限りは。私は、信じています」
「……そうか」
王の眼差しが、不意に和らいだ。
息子のライオスにさえ滅多に見せる事の無い微笑が、その顔には浮かんでいた。
「哀しみを知り痛みを知り傷付いても、それでも貴女は信じるか。ならば、私も信じよう」
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Reservoir Amulet2