01
山の中にいる内から、焦げ臭い匂いが鼻をついた。
はっとして進む方角の空を見ると、朱い炎と黒く立ち昇る煙が見えた。
まさかと思って走り出す。
息を切らして辿り着いた村は、炎に包まれていた。
血を流して倒れている村人達の息は既に無い。
『私、ずっと待ってるね。氷月』
「……っ」
夢中で火の中を駆け、神無と暮らした小屋へと向かう。
彼女との想い出の場所は、目を覆いたくなるような惨状と化していた。
「神無!」
戸の前に倒れている神無を抱き起こすと、べっとりと朱い血が手に付いた。
その息も微かで細い。
今にも途絶えてしまいそうな程に。
「神無……」
どうしたら良いかも分からずに再び名前を呼ぶと、神無はゆっくりと目を開けた。
「氷、月……?良かった、無事で……」
細く白い手が力無く動き、彼女の体を抱える腕に添えられる。
「早く、逃げて……。此処は……危ない。貴方は、狙われてる……」
こんな事になったのは、自分のせいだ。
炎の朱が、血の朱が呼び戻す。
忘れたかった昔の自分を。
罪深き己を。
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