05


「……は?」

「貴方の名前。思い出せるまで、そう呼んでいい?」

唐突に言われて戸惑いながらも答える。

「……別にいいけど。何で氷月なんだよ」

「私、冬の凍り付くような月が好きなの。澄んでいて、とても綺麗だから。貴方の瞳、何だかあの光に似てるから」

その感覚はよく分からなかったが、神無はやけに嬉しそうに立ち上がった。

「食事を作るね。まずは力を付けないと。あっ、それよりも先にお水だね。喉渇いてるでしょう」

一人で忙しく動き出した神無を見ながら、思わず溜息をつく。

こんな雰囲気は慣れていない。

居心地が悪くて落ち着かない。

そう思ったけれど、いつの間にか神無との暮らしに安らぎを覚えるようになっていた。

やがて体を動かせるようになると、神無と共に畑仕事にも加わった。

最初は突然現れた氷月に対して警戒の眼差しを向けていた村人達も徐々に打ち解けた。

それも全て、遠巻きに眺める視線も気にせずに接して来た神無のおかげだろう。

しかし少しずつ村での生活に慣れて来る一方で、自分の居場所は此処ではないと感じ取ってもいた。

こんな穏やかな暮らしなど相応しくないと。

望む事すら許されないものだと。

氷月自身も知らない声が、内側から語り掛けて来る。

それはきっと、消え去った記憶の中からの声だ。

失われた思い出がどんなものかは分からないけれど、何となく想像は出来る。

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