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多分、まっとうな生き方なんてしていなかった。
代償も求めずに与えられる優しさも、惜しみ無く差し伸べられる手の温もりも知らなかったのだろう。
だから、此処に長く留まるべきではないと分かっているのに離れられないのは。
中々出て行く決心がつかないのは。
いつも笑い掛けてくれる神無がいるからだ。
正確な氷月の年齢は分からないけれど恐らく年上の彼女は、伏せっている間も笑顔を絶やさずに世話をしてくれた。
長い間一人で暮らしていたらしい神無は、家族が出来たと純粋に歓んでいるようだった。
その様子を目にする度に、許されないと分かっている筈の夢を見る。
自分は異端だと忘れさせないとするように、心の奥からの声が繰り返し響いても。
広がる夢が果てしない願望が、それより強く胸を支配する。
此処にいたいと。
叶うならずっと此処に、神無の側に。
記憶を無くして彼女に出会ったのは、一度死んで生まれ変わったように。
新しい自分を見付けて行く為なのかと。
そんな都合の良い事を考える。
所詮束の間の儚い夢だと、心の何処かで嘲笑う自分もいるけれど。
いつか立ち去る時が来るなら、その前に。
いつまでもこの生活が続く訳では無いのなら、その前に。
そう思いながら季節は巡り、冬が来た。
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