08
「だけど、もしも出掛けた先で記憶が戻っても、帰って来て。一度だけでいいから。お別れも言わないなんて寂しいし、私も本当の貴方に会ってみたいし。……本当の名前も知りたいし」
「神無。僕は氷月だ」
それだけは、変わらない。
そう伝えたくて、神無を見詰め返す。
「前の僕がどうだったか、なんて関係無いよ。今の僕には、神無の知る氷月だけが全てなんだから」
以前の自分を知っても、神無は今のままでいてくれるだろうか。
そんな不安は常に付きまとうけれど。
「だから帰って来る。絶対に」
いつか終わりが来るとしても。
それまでは必ず、この儚い夢の眠る場所へ。
「私、ずっと待ってるね。氷月」
「ああ」
今はただ、眼差しと微笑だけを交わして。
果たせると信じて約束を交わして。
夜が明けたら、空気が張り詰めた寒い外へと。
君が好きだと語った、冬の凍て付く月が浮かぶ夜を越えて。
夢を抱く者の強さで歩き出す。
知らない記憶に怯える心を封じて。
この先には何が待つのか。
密かに求める優しい未来か、それとも。
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