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燃え上がる朱い炎。

手のひらを染める、朱い鮮血。

今も尚狂おしく鮮やかに支配する、朱の記憶。

あれは時の向こうの出来事だ。

此処にいる神無が知るのは、氷月に聞いた話だけだ。

どんなに似ていても、別人の筈なのに。

頭領はまるで、本人に対するように語る。

『今一度訊こう。何故我の元へ来なかった?あんな小さな村では一生知り得ぬ贅沢をさせてやったというのに』

「……黙りなさい」

神無は驚く程に低い声を出した。

「言った筈です。力を振りかざせば何でも手に入ると思ったら大間違いだと。私は絶対に屈しません」

剣を構え直し、前へと飛び出す。

今度は交わす暇さえ与えず、影に斬り掛かる。

一瞬の内に霧散するのを見届けて、独り言のように呟く。

「ずっと、この為に……この為に、私は剣を取った。今度こそ、守りたくて」

「……神無」

立ち尽くしたまま名を呼んだ氷月の方を振り返り、切なそうな寂しそうな瞳で続ける。

「私なの、氷月」

口調が変わった。

呼び方が変わった。

それはもう還らない想い出の中の、彼女そのもののようで。

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