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巫女は表情を和らげると、自分の胸に手を当てた。

「私は知っています。人の抱く、沢山の暖かなものを。ですから、まだこの世界が滅びるべきでないと確信を持てます」

そこで息を吸い込み、再び話し出した声には後悔の響きがあった。

「以前、私があの人を倒しながら思念には打ち勝てなかったのは、知らなかったからだと今なら分かります」

「知らなかった?」

訝しげに聞き返した氷月に、翼は頷いた。

「私はずっと、長い間一人でしたから。私の内には無数の人の、無数の美しい想いが息衝いているというのに……。真の意味で、それを分かっていなかったのです。知識のように持っているだけで、誰かと触れ合う歓びも語り合う一時も知らずにいました。或いは、昔は知っていたのに忘れてしまったのかもしれませんが」

長い時の孤独。

ただ流れて行く営みを傍観しながら過ごしていた時。

静かに語る巫女は寂しげな微笑を浮かべる。

「想いの化身など、名ばかりでした。誰かの温もりも知らず、心はいつも何処か冷えていて。そんな私が、どうして思念を覆えるでしょうか。私はやっと、今になってその事に気付きました」

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