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歪んだ笑みと共に、頭領が言い放つ。

「暗き思念と、愛し慈しむ想い。どちらが強いか、試してみようではないか」

二つの対極を成す人の思いを受ける存在が、向かい合う。

ようやく弱まって来た炎の粉が、風に舞い散らされる。

同じ風に髪と衣を揺らす二人の様は、まるで。

この世のものではないかのような。

古の神話か伝承か、そんなものの一場面であるかのようだった。

そして、空気を切り裂く矢と閃く白刃が交差する。

勝敗は、呆気無い程に一瞬で決した。

かのように思えた。

矢は頭領の胸に深々と突き立ち、白刃は巫女の髪を一筋落としたに留まった。

時さえ止まったかのような静寂の瞬間の後。

ゆっくりと頭領の体がくず折れる。

その刹那、氷月は確かに見た。

幼い頃から恐怖と共に刻み付けられた彼の顔。

そこに、これまでに見た事の無い表情が浮かんでいるのを。

歪んだ笑みではなく、本当に心から満足そうな微笑が。

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