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「……ああ、そうだな」

微笑んで同意した勇は、前を行くひかりの後ろ姿を見ながら続ける。

「他にも、色々な人との出会いが俺を変えてくれた。何も無いと思ってた俺は、本当はかけがえの無いものを沢山持ってたんだ。だから、お前も思い詰めるなよ。お前に何かあったら、鏑さんも俺達も、神無も泣くぞ」

氷月は黙ったまま、長い黒髪の娘へ目を向けた。

だからこそ、苦しいのに。

何も持っていなければ、いっそ楽にもなれるのに。

何かを、誰かを守りたいと願うのはとても幸福で。

そして、とても重い事だ。

大切なものが多ければ多い程、それを失った時の痛みは深くなる。

けれど、それでも。

「氷月さん」

振り向いた神無が、名前を呼んで腕を取る。

「帰ったら、一緒に映画を観ませんか?この前お父さんが借りて来た時代劇なんですけど」

彼女が名を呼ぶ度、触れる度、感じるのは歓びだから。

いつも、痛みと共に歓びもあるから。

幸福なのだ、きっと。

大切なものを胸に抱いて生きて行くのは。

何かを誰かを、大切に想えるのは。





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