09
夕食の時間になっても、神無とひかりは姿を見せなかった。
ひかりから勇の携帯に入ったメールによると、着付けが終わった直後に鏑がやって来たらしい。
「夢中で神無の晴れ着姿を撮ってるってさ。当分終わりそうにないから、夕飯は二人で食べろって」
その指示に従い、氷月は勇と共に食堂に入った。
初めての食堂の味は悪くはなかったが、やはりいつもの食事の方が良いと思った。
「俺も料理はするんだけどな。男の手料理食っても楽しくないだろ?」
氷月の心を読んだかのように、勇は笑った。
「今日の見回りが終わったら、神無に夜食でも作ってもらえよ」
「あんたはひかりさんに作ってもらうんだね」
そう返すと、勇は言葉を詰まらせてから頭をかく。
「あ、ああ。まあ、そうだろうな」
照れているのだろうか。
何にしろ、夫婦の仲が良いに越した事は無い。
氷月は考えながら箸を置き、話題を変えた。
「あれを僕に見せた理由は、何?あそこに入れる人は限られてるんだろ」
恐らく神無は、あの装置のある部屋には入らない。
氷月は一人になるのを待っていたという事は、そういう事だ。
「お前には入る資格と、必要があると思ったからな。何しろ記憶を無くさずに時を越えた、初めての存在なんだ」
勇はそれ以上言葉を重ねず、湯飲みを手に取った。
黙って茶を啜る様子を見て、氷月も追求はしなかった。
しかし、この沈黙には何かあると思った。
まだ語れない、何かが。
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