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「以前の、デパートの屋上での事を覚えていますか?」

「あ、ああ。あのヒーローショーか。署に変な手紙が送られて来て、守と一緒に警備に行った」

「ええ。その手紙は悪戯でしょう。けれども手紙を送った誰かは、ほんの僅かでも思った筈です。もし本当に何かが起きたら面白いのに、と。そんな他愛の無い思念に、力のある者が便乗したんです」

思い出すのは、張り巡らされた黒い糸。

呪いを掛けている者の存在。

「このマンションも同じか。訪れる人の、何かがいたら面白いという心理に乗ったという事か」

「そうなりますね。だから私も気付くのが遅れてしまった。噂話やテレビやネットでの情報……。そういったものは何の前触れも無く突然に大きくなりますから。そしてそれらは、人の心に少なからず影響を与えるでしょう」

確かにそうだ。

それが事実だろうと偽りだろうと。

受け取る側が信じたなら、全て事実と成る。

その思念を利用した者がいるという事か。

翼は鋭い眼差しで、低く呟く。

「もう猶予はありません。そろそろですね」

「翼さん?」

言葉の意味が分からずに名を呼ぶと、紺青の瞳が真っ直ぐに見詰めて来た。

吸い込まれそうな錯覚を覚えた時、翼が口を開いた。

「……大地さんは」

滅多に見せない不安や迷いのようなものが、その口調に表情に表れていた。

「もし私がいなくなったら、どうしますか?」

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